会話論 weekly~作るヒント、観るヒント88

今週開幕する順風女子公演にはラストの全員ネタを提供。 
演出の本田誠人くんに最初に役者で出てもらった和風オカルト「漢字シティ」は16年前の今ごろ。
自分を悪く言う人が訪れそうで、岩神のそばを離れられなくなった被害妄想男の悲劇。

男:だって私がここを離れたら
作家:え?
男:ここを離れたら

 鳥の声が増え、騒がしくなる。

作家:私は小説の題材を取材するため、編集者の方とこの谷間を訪れただけです。
男:小説って…(不安そうに)どういうことですか?
作家:小説ですよ。…作家ですから。なんですか?
男:つまりそれは私のことをいろいろ悪く書くんでしょ。
作家:は?
男:わかってるんですよ、私のことをいろいろ書くんですよ。
作家:違いますよ。何言ってるんですか。
男:(哀願)お願いです、書かないでください。お願いします。
  私、何か悪いことをしましたか?何もしてないでしょう。私はただ普通に、ね?
  ですよねですよね、お願いですから書かないでください。
〜故林広志 谷間の岩の話, 2000

この設定には神田山陽バージョンもあって、本田バージョンのほうが狂気が浮かぶ。
不安がよぎり空間の色が変わっていく。一方通行の会話の為せる技。2016.4.10.