すわしんじの体


ほんと、喋りたいんだなー人々は。 故林広志

メールで携帯で街中でテレビで。飛び交う情報やゴシップ。
そこには言葉がある、でも言葉だけ。動きが無い。身体が無い。身体は大事だよ。
私だってこの原稿をとっても面白い体勢で書いてます。見せたいけど嘘なので仕方ありません。
そんなことより「面白い身体」と言えば今、役者・すわ親治。
狂気やら悲哀やら無垢やら暴力性やらを「喋り」続ける「面白い身体」!飄々と歩き、子供のように驚き立ち止まり、かと思うと哲人のように考えあぐねる。
せっかくのこの三次元世界、身体の面白さを楽しめないと絶対に損なのです、私たち。

ドリフターズ全盛時に加入、白塗りのブルース・リーで加トチャンの「へっくしょん」にコマのように倒れ、笑い男で引っかき回し、お化け役で志村を追い込んだあの突貫小僧。
人形劇『飛べ!孫悟空』では、いかりや三蔵を乗せる「馬」として登場、名曲♪ゴー・ウエストでザ・ベストテンやヒットスタジオにも出演、現在は『サボテン先生』などの舞台やドラマに現れる、怪しくも雄弁な身体。

すわ親治こと諏訪園親治(すわぞの・ちかはる)が生まれ育ったのは鹿児島。
ベンチャーズやグランドファンクに憧れ、組んだバンドでコンテストを勝ち抜く一方、バンド練習後には必ず『全員集合』を見ていたお笑い好き青年が上京したのは万博の年。
加藤茶の運転手からドリフのメンバーへ。そして十余年の活動の後、メインストリームから姿を消す。
しかし勤め先の水道屋で、セメントを運ぶネコ車を相手に「一人ダンス芸」を編み出したことから彼の復活劇が始まる。ネコ車を自宅に購入、改良に次ぐ改良、公園での練習といった、ある種『プロジェクトX』のような道のりを経て完成された至芸「ネコ車マンボ」を引っさげカムバック!
風刺集団ニュースペーパーからスタンダップコメディと呼ばれる一人ネタ・・しかしそこに一貫して流れ見えるもの、それは彼の身体に染み込んだ、ドリフ時代から息づく抜群の喜劇的リズム&センス。


彼が満を持して2003年2月、2回目の単独コント集を披露する。
シニカルだけどどこか優しい、現代人に向けられた眼差し。コンビを組まず、一人でやり続けることの理由を「最初に一緒にやろうって話してた相手が偉大過ぎたからかな」と振り返るすわさん。その相手。志村けんである。

ーー『中洲通信2003年2月号』より。