絹プロデューサー対談

故林:絹も12回を数えました。足掛け5年。木村万里さんに入って頂いて4年。

木村:え。わ、もうそんなになりますかー。1回目は、故林広志プロデュースってことで、シアターDでやってましたよね。故林コントを観る会って感じで、暴動Mini、Hula-Hooper(第二期コントサンプルから生まれたユニット)にシアターDの芸人さんたちを加えて。故林さんが作・演出・出演をしていた京都のコント集団ガバメント・オブ・ドッグスのメンバーもゲストで出てた。懐かしかったー。あのテイストを再び味わえて嬉しかったです。でも、ずいぶん長かったですね~。
eba-m エディ&水沼 from G.O.D.

故林:何がですか?
木村:上演時間が。ライブが終わってから入った居酒屋で、友達からの第一声は「たしか、短いって聞いてたのに・・・」。 
故林:すみませんでした(笑)。で、2回目からは15分×5組(6組)にして短く。 

木村:お笑いの人たちは、よそではせいぜい5分くらいしかもらえなくて、それでは自分たちの笑いが表現できないとの不満をもってるにちがいないと、そんな構成でしたが、やってみると15分はけっこう長くて、若手にはやり切れないことがわかってきた。それまでに場数のないENBUゼミ生ユニットにとっては当然でしょうが、お客さんに見せるにはまだ力が無いということもわかってきた。
故林:演劇の若手にも場数を提供してあげたいと色々努力してみたんですが・・万里さんにプロデューサーに入ってもらって、万里さんのお客を呼ぶってことになるとね。 


木村:当初は、プロデューサーという意識はなかったんですけど。シアターDの方々にスタッフとして動いていただけるというのはものすごいメリットだけれど、故林さんがやりたいコントは、Dとは違う方向のものだろうなとうすうす感じていて。ライブって、空間がとっても大事。日頃、お笑いの若手ライブを続けてるシアターDの色彩とは違えたところでやった方がいいだろうとは思いましたね。まだ匂いのついてないまっさらな空間がいいだろうと。ちょうど下北沢にオープンしたばかりのリバティがいいんじゃないかと。家からも歩いて行けるメリット大で。

故林:なるほど。シアターDはあの後もGEESEや勇者の森がお世話になっています。木村万里さんに企画を預けるってことで。万里さんに「故林さん台本のコントが見られる空間を!」って熱く語って頂いたのは非常に嬉しかったです。 
木村:故林さんのテイストの違いを発揮できるようなライブにしないといけない。それがそもそもの最初の目的だったから。絹の。 
故林:ホントありがとうございます。 
木村:松尾貴史さんのニュースネタ、すわ親治さんのDjネタ、ナイロン100℃の村岡希美さん・廣川三憲さんの母親面談ネタ・・どれも面白かったですねえ。040 ストイック遊び、松尾×故林028 男女コンの定番村岡・廣川

木村:じわじわ言葉が積み重なっていって、奇妙な空気がとめどなく広がり、予期しなかった笑いがこみ上げてくる、という感じはなかなか他では味わえない空気感。ワッと最初からわかりやすいツカミが必須なテレビではできないネタ。GEESEさんにも故林ネタのセンス方向もやってほしかったけれど、いま、自分たちで進んでる方向も面白くなってるものねえ。自分たちで作り演じると、「やらされ感」がなくって、自分たちの空間を作れるからいいのよね。空間に自分たちの力がみなぎる。笑いって、やる側の自主性がとても大事だから。(GEESEは絹12からオゼキ台本を上演)。 

故林:そうですね・・最初は僕の台本をやるってことでお笑いライブに出る段取りを組んだんですけど。
木村:作家の才能があるんでしょうね。そりゃあ、自分で作って自分でやって受けたら、嬉しさ百倍でしょうしね。故林塾(第三期コントサンプル=GEESEが生まれたワークショップ)で学んだことも大きく役立っているのじゃないでしょうか。 


故林:最近万里さん、「私が思うようなライブになってきた」っておっしゃってますが、演劇/演芸両方から面白い顔合わせが実現できてますね。
木村:演劇からは、故林さんからも提案してもらったペテカン、明日図鑑、ヨーロッパ企画、ナギプロパーティーさんらが、抜群に評判いいし。

069 ーロッパ企画のコント!

今まで着目されてこなかった笑いのパターンが新開発されてきている感じ。え、こういう笑いの表現方法があったのか!という発見。演芸からは、清水宏、すわ親治、オオタスセリ、松元ヒロ、モロ師岡、バカリズム、だるま食堂、楠美津香、本間しげる、山本光洋さんら、ライブの現場で実力を発揮してる方々に参加してもらってほんとありがたいです。030 変幻自在の人情図鑑、高山広

 

ジャンル分けがむずかしいけれど、圧倒的な力の高山広さんのオリジナルな世界は、絹のお客さんにとって初めてで衝撃だったようです。東京ダイナマイトのじっくり会話をすすめていく間は、絹空間で味わえて最高でした。リピーターも含めてお客さんも増え嬉しいです。お客さんにとっては、手前味噌になりますが、リーズナブルな会だと思いますよー。ほんとは、入場料を上げて、ゲスト出演者さんらにもっと謝礼を差し上げられるようにしないと、と忸怩たる思いを日々感じています。小ライブにつきもののジレンマです。 
故林:僕は今やプロデューサーというより、一人の作家として参加させて頂くことになっていますが、今後の絹の「狙い」、プロデューサーの万里さんとしてはどうお考えですか? 

木村:その・・・プロデューサーというのはまだ面はゆいんですよねえ。故林さんが当初、企画して引っ張っていってたのに、木村のお客さんらに見せるなら、と演芸畑ゲストを増やして、気がついたらこうなってたというのが正直なところですがねえ。故林さんの台本を見せる、従来の演劇ファン以外に広げていく、というのが目的。それプラス、演劇ファンには自分で場を背負いきる覚悟をもって場にのぞむ演芸人の笑いを、演芸ファンには演劇的にじっくり作り込んだ笑いを見てもらいたい。当初から、無理のあることをやってるわけで、だからしんどい、でもだから面白い。なおかつ、まだまだ未熟な若手の舞台も見てもらいたい、と、贅沢な望みばかりで申し訳ないですが、志は高く、と気張っています。絹のお客さんたち、温かく見てくださってるのがとてもありがたく感謝感謝です。成長の過程を見る喜びを発見してもらうという付加価値も出てきたりして。寄席ではそういう習慣が当たり前のようにあるんですね。前座(ぜんざ)や二つ目という発展途上の身分のうちから落語家さんの芸を見届ける喜びが。出る側にも見る側にも、幅を広げてもらいたい。こんな世界があるんだと。舞台と客席の双方向の充実をめざしたいです。それでこそ、自由なリバティな下北沢の空間、しもきた空間リバティができあがる。 

故林:と言うと?

木村:演者にとって自分のファンばかりが相手だと煮詰まってくるんですね。結局、自分の首を締めることになって自滅する場合がある。そういう危惧は演芸畑でもあるし、特に小劇場では、出演者どうしがチケットを買い合って成立している空間には、よその人が入ってきにくくなる。アトリエ公演のようなものなら練習の意味でそれもいいかもしれないけれど、普通のライブでは知らず知らず閉鎖空間になってしまって辛い。「シアターガイド」4月号の特集を見てたら、小劇場に出てる人たちが3ヶ月に5本くらいしか演劇を見てないって出てたけど、ほんとかな。だとしたら、特に、笑いの場合は困るよね。いろんな価値観の差を見せるのが笑いの要素だと思うから。でもなあ、バイトで芝居の資金稼ぎと稽古とチケット売りの毎日をどうやりくりするか、永遠の課題でしょうねえ。
故林:それはねー。普通自分のプラスになるようなものは気になって観に行くもんだけど。
木村:絹シリーズで、故林台本をやる若手がまだ十分育ってないっていう大問題があるけど、今後も色んな層の人がいる、風通しの良い客席を作っていくから、頑張りましょう。
故林:是非とも宜しくお願いします!