日経新聞評

脱・コテコテ、関西の笑集団奮闘

(日本経済新聞1994年9月11日 エンターテインメント)

 上方のお笑いといえば”そこまでヤル~”のコテコテ流ばかりと思いきや、独自の笑いを追求している小集団がいた。ピュアな時間が流れる舞台を演出する若き「ガバメント・オブ・ドッグス」。持ち味を生かし、ファン開拓に頑張る舞台をのぞいてみた。
 九月三日、大阪の扇町ミュージアムスクエア。外は相変わらずむせ返るほどの暑さだが、この空間だけはスコーンと現実からかけ離れた世界が広がっていた。

 テーブルをはさんで二人の男が座っている。「こんんちは。茶飲み話の時間です」「いい天気ですねぇ」「はい。今日は東シナ海から張り出してきた一〇一六ヘクトパスカルの移動性高気圧に覆われていますから」「ほう。昨日のスポーツですが、東京ドームで行われました巨人-ヤクルトの二十一回戦は4対2でヤクルトの勝ちでした」・・・「そろそろお別れの時間です。それでは白石さん、支払いをお願いします」「それを聞いて私は驚きの色を隠せません」。
 ニュース原稿を読むかのように茶飲み話を続けるニュースキャスターを戯画化したものだが、このほか「封筒」という言葉が実に破廉恥な意味で使われる地方出身の放送局アルバイトとディレクターとのやりとり、バラエティー番組「普通」で普通のことを普通にただやる普通の人々、意味なく常に湯飲みを持っている三兄弟など十数本のコントが次々に繰り出された。
 すっきりした台本で演じられる無駄のないコント。メッセージがあるわけでもなく、メンバーの芸がきらめいているわけでもないが、その視点に驚かされ笑わされる。台本重視・アドリブ廃止のスタイルは今どき貴重だ。
 「ガバメント・オブ・ドッグス」の結成は一九九一年。京都市に生まれ、小学校時代から書くことが好きだった作・演出の故林広志が、同級生のエディ・B・アッチャマン、同窓で立命館大学内の劇団「立命芸術劇場」を経て、劇団「MONO」を旗揚げした土田英生とその仲間、水沼健、犬飼若浩、西山智樹を引き込んだのが始まり。
 当初は京都・木屋町にあったライブハウスを拠点にしていたが、昨年つぶれてしまったため扇町に移った。年二回の公演を続けているが、今回も四公演で五、六百人を集めた。それも女子中高生というよりも大学生、サラリーマンが目立つ。触発されたい人向きの笑いともいえようか。