演劇ぶっく加藤啓×故林対談

演劇ぶっくno.95 (2002.FEB.) より

『ニッキーズ・パビリオン』
作・演出◆故林広志
出演◆松尾貴史 小林賢太郎・片桐仁(ラーメンズ)
東京のみ→ 倉森勝利・小松和重・佐藤貴史・大政知己(サモ・アリナンズ) 平田敦子
大阪のみ→ 土田英生・水沼健・エディBアッチャマン・犬飼若浩(ガバメント・オブ・ドッグス)<< 大阪のみ
2001/10/19-21◎天王洲アイルアートスフィア、10/26-28◎リサイタルホール

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更地だった土地が次第に発展していく経過の中で、その場その場の様々な人間関係をシュールに描くオムニバス。列車の中での出会い。開発途上の土地にある屋台での、近づくと突き放す性癖を持つ親父。発展した町の政治家の行い。被害妄想な花屋の娘。落ち込む男を励ます謎の天使などなど、どれもなんだかかみ合わない人間関係がおもしろい。やがて、その土地に戦争が起こる。ビデオ係はその移り変わりをずっと撮り続けていた。ラストは開発担当である役所の人々が集い、記録係の撮ったビデオを見る。そこに映っていたものは・・・。

松尾貴史、ラーメンズ、サモ・アリナンズ、ガバメント・オブ・ドッグス、拙者ムニエルの加藤啓。個々に観ても十分面白い逸材が勢揃いした。舞台はまさに技の見本市状態。役者達は故林の演出のもと個性を際だたせたり、融合させたり、自由自在に動き、新たな魅力も生み出していた。松尾相手にツッコミを好演した加藤啓と、曲者たちをみごとにまとめた故林広志が公演をふりかえる。  [加藤啓blog]

パビリオンが演出家シンポジウムに!?
故林:みなさん個性のある方ばかりなので、窮屈に役に当てはまるのではなく、当て書きをした上でなおかつほどよくみなさんに暴走をしてもらいたいなって思ってたんです。
加藤:今まで僕が思っていた故林さんの面白さはネタ自体の面白さだったんですが、『ニッキー~』は役者がそれぞれ持ってる個性を膨らませていて、イロイロやれる方なんだなーと思いました。
故林:もともと台本が浮かび上がるっていうより、もっと役者がその場の思いつきで生き生きやってるほうが好きなんですよ。台本が出発点っていうほうが最終的には良いものができるかなと。そういう意味では今回は最初の思惑どおりにいったと思います。みなさんがアイデアを出してくれたので。でも、だいたいひとつのシーンに演出家が2人いたんですよね。ラーメンズのときは賢太郎君が「故林さんが言ってるのはね」って片桐くんにフォローしてくれたり、サモアリのシーンは、小松さんと倉森さんがイロイロ言ってくれて、啓くんのときは松尾さんと僕とが(笑)。
加藤:それぞれの意見を聞いてやったことを、「違う」って言われて混乱したり(笑)。
故林:全体のシーンなんてもう大変。大阪組も入れて全員がそろった唯一の2日間では、演出家のシンポジウムみたいになってました(笑)。

加藤啓をツッコミにした理由
故林:公演によって出すネタが違うパートがあったんです。たとえば精神科医のネタで、「校長先生が増えていく気配が感じられる」とか「早替えが間に合うか不安」とか神経症の症例をあげていくパート。これは事前にネタを箇条書きにしてたくさん作っておいて、松尾さんに選んでもらうんです。だから相手役の啓くんが毎回松尾さんの出してきたネタに合わせるのに大変だったと思います。稽古場で1回も出たことのないものが出る可能性があるから。
加藤:ツッコミが上手な人だったら、臨機応変に松尾さんのボケをたしなめていけるんでしょうけれど、僕はそういうタイプじゃなかったのでチョット苦労しましたね。
故林:啓くんにツッコミをお願いしたのは、彼の芝居を見ていて言葉のセンスがいいなと思っていたから。松尾さんに」対してのツッコミは、教科書通りに間合いをはかってツッコむよりも、ツッコミで笑いをとってもらえれば、それに対してまた松尾さんもノッてくれると思うし、良い意味で松尾さんを悔しがらせてほしいなと思ったんです。慣れないことで苦労していることもあったけど、幕が開いてからは一番生き生きとしていたんじゃないかな。

加藤:そうですかねぇ?稽古のときは大変でしたが本番は楽しかったです。僕は稽古場で言ってない台詞を本番ではよく言ってましたね。片桐さんと絡む場面でも、僕たちは打ち合わせをせずにその場でどういう言葉が出てくるのかを楽しみにしていたんです。新しいことを言った方が片桐さんの反応が良いから、反応がほしくて言ってたこともありました。
故林:賢太郎さんのきっかけ台詞が出るまで、片桐くんと啓くんが延々ネタを言い続けてるのは楽しそうだったね。「このままだったらラーメンズなめられるぞ!」って賢太郎くんがライバル意識で言ってた(笑)。
加藤:いや、ライバルというか・・・ありがとうっていう感じですね。イロイロもらいものをしたんで(笑)。スニーカーとか携帯ストラップとかTシャツとか。サモアリの佐藤さんにはビデオデッキともらいました。
故林:稽古場では賢太郎くんがサモアリのTシャツを着たり、片桐くんが拙者ムニエルのTシャツを着たりしていたね。メンバーのスワッピング!?案とかも出て、賢太郎くんがサモアリに入り、松尾さんがラーメンズに入るとか言ってたし(笑)。
加藤:不思議と誰もムニエルに入りたいという人はいなかったです(笑)。僕はガバメントで人が足りなかったら行きますよっていう気持ちなんですけど(笑)。
故林:(笑)自分でいうのもなんですが、今回はみんな劇団を離れて交流して、芝居の上でも最終的にはいろいろな経験を持って帰ってもらえたんじゃないかと思います。 

(構成◆石本真樹 文◆木俣冬 撮影◆アラカワヤスコ)