故郷の色

同調コント第1号、苦し紛れのはずがなぜか優勢に・・酢豆腐と中島らもさんの「水テレビ」って台詞から思いついた記憶。92.6初出 

『故郷の色』

明るく。田舎の駅前広場。ベンチ。シンが立っている。

ノブ:シンちゃん!
シン:ノブ!
ノブ:昨日帰って来たんだって?
シン:ありがとう忙しいのに来てくれて。
ノブ:そんな。ホント久しぶりだなあ。
シン:もう四年になるよなあ・・(見回し)変わってない。
ノブ:この駅前は特にな。ま、座れよ。
シン:ああ(座る)。
ノブ:(座る)今年卒業するんだろ、大学。
シン:それはまあ。(短い間)みんな元気?
ノブ:先週さあ、同窓会があって、矢口先生なんかすっかり白髪になってて
最初見た時誰かと思ったよー。
シン:みんな俺のこと何か言ってた?それが心配で
ノブ:あ、お前全然会ってないんだ。
シン:うん(心配)・・
ノブ:そっかそっか
シン:実は(間)この町の人ってみんなそうなんだけど
ノブ:どうした?
シン:いや大したことじゃないんだけど・・・
(空気変えようと)あ、そうだ例のあれ!
ノブ:え?
シン:(文庫本を出す)俺が東京に行く前の日に貸してくれただろ。(渡す)
ノブ:(受け取り)文庫本?
シン:随分長い間借りてしまって
ノブ:(めくりながら)パーティージョーク集。
シン:・・あの、この町の人ってなんか
ノブ:(本を見たまま)ああ貸したかもなあ。
シン:受け入れたがらないだろ、特に
ノブ:(聞いていない、本を鞄に)
シン:一度東京に行った奴を
ノブ:(鞄の口を閉じ)東京に行った奴って?
シン:いや(繕い笑い)なんか安心したよ。
ノブ:え?
シン:変わってないから。ノブ。
ノブ:そうだろ、変わってないだろ。(短い間)俺は。
シン:あ、あは俺だって変わってないさ!
ノブ:四年前なんだよなー、お前が東京に出て行ったのは・・
シン:四年か・・長いようで結構短かったな、うん短かかった。
ノブ:(探るように)どうだった、東京?
シン:え?ああ・・はは下らない所だよ東京なんて。
ノブ:(疑い)ホントか?
シン:ホント、ホントだよ!
ノブ:でも四年もいたんだろ、何か影響受けたことは無いのか?
シン:全然!ホント大したことなかったよ。
だからこうやってUターン就職の準備に帰って来たんじゃないか
ノブ:みんな「シンちゃんは東京の色に染まって帰ってくる」って言ってたんだ。
シン:とほ、とんでもない!俺は東京に行く前と何一つ変わってないよ!
ノブ:(間)そうだよなー!俺たちは変わることの無い親友同士だもんな!
シン:そうだよノブ、あはは
ノブ:あ、そういや(笑う)中川が石本と結婚するんだ。
シン:え?
ノブ:中川幹男だよ、あの!
シン:・・・中、川?
ノブ:お前、中川忘れたのか?
シン:え・・あ!(ノブを指差し苦し紛れ)野球部の!
ノブ:卓球部だよ。
シン:ああそうだ、卓球部だ卓球部、あはは
ノブ:(間)ま、四年も会わなかったら忘れることもあるよな。
シン:違うよ!ちょっと勘違いしただけだよ・・
そうそう、だって石本ってあれだろ(苦しい間、目をつぶり)三組の。
ノブ:(短い間)そうだ確かに三組だ。覚えてるじゃないかー!
シン:あははは(小声で)よかった、あっははははは
ノブ:あー。
シン:何?
ノブ:その笑い方。変わってないな、シンちゃん。
シン:当たり前だよ!俺は東京に行ったからといって変わらないよ!
ノブ:あ、そうだ(缶の上にテニスボールを貼り付けた物を出し笑う)
ほら、これ。(手渡す)
シン:え?
ノブ:これだよ。(思い出に浸っている)覚えてるだろ。
シン:(苦し紛れ)あ、ああ・・これね。
(しばらく見詰め耳元に、振ってみる、音)あは、音がする。
ノブ:早くやってくれよ、例のやつ。
シン:え?あ、ああ。そうね。えーっと(頭に乗せる)
ノブ:ふざけてないでさ。
シン:ああ、また後で、後でふざけずに必ず
ノブ:シンちゃん・・
シン:なんだよ?
ノブ:やっぱり変わったよ。
シン:そんなことは無いよ!そんなことは無い!
ノブ:(真顔)シンちゃん。(指でサイン)
シン:は?
ノブ:(もう一度指でサイン)
シン:あ、ああ・・(まごつきながら指で何かのサイン)
ノブ:(やや間)覚えてるじゃないか!あははは
シン:そうかこれでよかったのか、なんだろホントあはは
ノブ:懐かしいなあ。
シン:おんなじだ、東京に行く前と何もかもおんなじ。
ノブ:じゃ、久しぶりにやるか!色野球。
シン:・・・え?
ノブ:色野球だよ!幾らなんでもこれは覚えてるだろ。
よくやったからなぁ、小学生の頃。
シン:・・・
ノブ:色野球だよ。
シン:色野球って?
ノブ:(真顔に)シンちゃん?
シン:あ!色野球ね!いやーど忘れしそうだったよ、いかんいかん。
ノブ:じゃ俺七番で緑な!(と言いながら地面に線を引き始める)
シン:(呆然と見ている)
ノブ:お前は?
シン:ああ・・俺いつも何色だったっけ?
ノブ:(線引き再開)何言ってんだ、シンちゃんといやあ紫だろ?
シン:そうだったそうだった!色野球だもんな紫で・・お前が7番
ノブ:そうだ、俺は大体いつも7番あたりなんだよ。
シン:そうそう!で、俺はいつも
ノブ:22番だった。
シン:22番?
ノブ:(奇妙な構え)さ、プレイボールだ!
シン:なんだよ・・それ。
ノブ:早く言えよ。
シン:え?
ノブ:早く言えよ、鳥の名前。
シン:あはは、そうだった、鳥の名前ね(熟考)ホトトギス。
ノブ:(動く)ツバメ!はい一点だ。
シン:お前点取ったのか?
ノブ:俺次は・・3番でコバルトブルー。
シン:か、変わるのか!
ノブ:(奇妙な構え)お前は?
シン:・・・9番で
ノブ:(怪訝そう)え?
シン:ん?
ノブ:9番なんか選ぶのか?
シン:あ、違う違う、8番だ。6番。8番!
ノブ:お前本当に色野球覚えてるのか?
シン:覚えてるよ!
ノブ:東京でも色野球はやるのか?
シン:東京では・・絶対やらないけど・・でも覚えてるよ!
ノブ:8番。
シン:う、うん8番。
ノブ:で?
シン:え?
ノブ:8番で?
シン:ああ・・(間)焦茶色。
ノブ:(間)逆転されたー!
シン:えええー?
ノブ:相変わらず強いな、お前。
シン:ああ・・よ、よくやったからなあ
ノブ:じゃあ2回表な。
シン:今日はこれぐらいにしないか。
ノブ:え!ここでやめるって言うのか?
シン:え?
ノブ:シンちゃん!
シン:な、何
ノブ:ここでやめたら・・幾ら払わないといけないのか
シン:賭けてたのかっ!
ノブ:どうしちゃったんだシンちゃん。
シン:(短い間)ごめん、俺東京に行ってる間にどうやら
ノブ:ちょっと、どうしちゃったんだシンキチ・・
シン:シンキチ・・・シンキチって誰だ?
ノブ:お前・・え?シンキチじゃないのか?
シン:俺は慎一郎だよ、向田慎一郎だ。
ノブ:山岡シンキチじゃなくて?
シン:誰だよそれ。(気づき)あなたは小田ノブヒロじゃ
ノブ:わたくし(名刺を出し)ノブヤマ寿三郎と申します。
シン:(名刺を受け取る)
ノブ:(やや間)文庫本返してもらえます?
シン:(慌てて鞄の所へ)

暗転。