優柔不断救助隊

「なぜか〜口調になる」パターン、中国からの留学生の話し方をヒントに「全て疑問文になる人」を台本化したのが最初。93.1初出

『優柔不断救助隊』

サイレン音。

声:緊急事態だけどー緊急事態みたいだけどー
全員直ちに集合した方がいいような気がするー

隊員1、続いて隊員2、駆け込んでくる。

隊員2:どうした!
隊員1:大変なようでそうでないような!緊急事態のようでそうでないような!
隊員2:何が起こったのかわかっていれば何が起こったか言ってくれてもいいようなそうでないような!
隊員1:今入った緊急連絡によると、横浜港沖でフェリーが爆発、火災を起こした。
隊員2:フェリーが火災を?
隊員1:これは緊急事態というかなんというか大変であることには間違いなくもないようなそうでないような

隊長、駆け込んでくる。

隊長:何をごちゃごちゃ言ってる!
隊員12:隊長!
隊員1:フェリーが
隊長:わかっておる。現場は横浜港沖二百キロの海上だ。
そこで最も火災現場に近いということで、ここ「優柔不断救助隊」にも救出に駆けつけるよう要請が入った!
隊員1:隊長!
隊員2:隊長!
隊長:(緊迫の間)出動しようか!
隊員1:出動しましょうか!
隊員2:どうしましょうか!

間。にらみ合って動けない三人。

隊長:フェリーには一千人以上の人が乗っている。
これほど尊い人命が失われるなんてことはあってはならないことだけれど!
隊員1:私もそう思うけれど!
隊員2:確かにそうだけれど!

間。緊迫感高まる三人。

隊員1:みんなが行くんなら行きますっ
隊長:落ち着け落ち着け。そう難しい問題ではない。
フェリーが火災を起こしている、これは事実だ。
乗客が焼け死ぬ、これも十分予想できるような気がして仕方ない。
隊員1:(短い間)諦めましょう。
隊長:諦めてどうする!
隊員1:はい!
隊長:こんなこと言ってないで早く出動しようか!
隊員1:そうです。間を取って途中まで行きましょう。
隊長:途中まで行くか。
隊員1:いえ、どうしましょう。
隊長:どうしよう・・
隊長・隊員1:(「どうしようか」などとブツブツ言っている)
隊員2:辛気くさい。
隊員1:何?
隊員2:辛気くさいと言ってるんですよ。
(二人をにらみ)辛気くさいんですよ二人とも!
隊長・隊員1:クサカベ。
隊員2:日頃から私はこの「優柔不断救助隊」の優柔不断さに嫌気がさしていたんです!
何一つ決断できず、どっちつかずで
隊員1:クサカベ、何をはっきりと物を言ってるんだ!
隊員2:過去我々が救助隊らしい働きをしたことがありますか!
隊長・隊員1:はっ
隊員2:雲仙の噴火だって
隊長:あれは本当に行こうと思いたかった!
隊員2:なんですかそれは。阪神大震災のときも結局
隊員1:あれは・・花をそなえた!
隊員2:供養しただけじゃないですか。
あなた方だってこの救助隊に入隊するという決断をなさったんでしょう!
隊員1:わ、私は親が「やってみたら」と勧めたから。(隊長に)隊長は?
隊長:私は仲のいい友達が入隊したから(隊員1に微笑む)。
隊員2:中学生のクラブ選びじゃないんですよ!
隊長:それ以上批判すると除隊を命じようかな!
隊員2:歯切れが悪いんです!・・そうです隊長!
今後、私たちが決断をしなきゃならない時にはこうしたらどうでしょう?
隊長:どうするんだ?
隊員2:イエス・ノーのどちらかしか使えない、と。
そうすれば自ずとどちらかに決断せざるをえなくなって
隊長:それはいい!
隊員1:名案だ!
隊長・隊員1:(口々に)と思うんだがその、どうだろう・・
隊員2:いい加減にして下さい!
隊長:すまん。じゃ思い切ってこのイエス・ノー方式を採用する。
(間)火災現場・・向かうか?
隊員1:・・イエス。
隊員2:・・ウエル。
隊長:なんだその「ウエル」ってのは!イエスかノーか、二つに一つだ!
(短い間)ただ例外はme, too。どうするクサカベ!
隊員2:イエスです!
隊長:よし!じゃ、どうやって現場に向かおう。
ヘリコプターで向かうか、それとも小型ボートで向かうか?
隊員12:イエス。
隊長:ど、どっちなんだ?
隊員1:間を取ってヘリコプターのようなボート!
隊長:無い!
隊員1:はい!どうしましょう・・
隊長:どうしよう・・
隊員2:辛気くさいんですよ二人とも!
隊長・隊員1:クサカベ。
隊員2:日頃から私は「優柔不断救助隊」の優柔不断さに嫌気がさしていたんです!
隊長、今後我々がこういったヘリコプターと小型ボートのどちらかを選ばなきゃならない時にはこうしたらどうでしょう?
隊長:どうしたらいいんだ?
隊員2:挙手です。どちらかに手を挙げるんです!
隊長:よし。火災現場にヘリコプターで向かえばいいと思う奴!
隊員12:(中途半端に手を挙げる)
隊長:どっちなんだ!
隊員12:(口々に)私は別に/これといって特に
隊長:こ、こういうのはキッカケだ!キッカケさえあれば・・(構え)行くぞ!
隊員12:は、はい(構える)
隊長:(間)1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12
隊員1:いつ行けばいいんですか?

徐々に暗転。隊長の数える声が必死さを増していく。