『トキメいたところで目が覚める。』 古川真央
ドッジボールのハーフタイム。作戦タイム。小学6年生たち。
山田 どうするよ。
小林 何が。
山田 俺たち。
小林 ああ。
山田 もう後がないんだぜ。
みよ子 やるしかないんじゃない。
山田 相手は十人。
鬼龍院くん (クールにうなずく)
山田 こっちは五人。
鬼龍院くん (クールにうなずく)
山田 知ってるか。ドッジボールっていうのは、ドッジボールを通じて少年少女の体力、精神面の 健全な発達と集団の中での人間性を養うことを目的にしてるんだってよ。
小林 何だよいきなり。
山田 何でもねえよ、人間性ってなんだよって思ったんだよ。
小林 おい山田。
山田 何だよ小林。
長い間。
山田 え何?
小林 …勝とうぜ。
山田 お前もう今度から格好いいセリフ言おうとか考えなくていいからな。
小林 (メンゴ)
鬼龍院くん あのさ。
山田 はい。
鬼龍院くん 今、俺達ってチームメイトだろ。
小林 うん。
鬼龍院くん たまたまじゃんけんでチーム分けしてこのメンバーになった。
山田 まあ。
鬼龍院くん 聞きたい。
山田 何。
鬼龍院くん 俺は聞きたい、みんなの意気込みを。
小林 意気込み?
鬼龍院くん なんでもいい。気持ちをぶつけてほしい。コートに立つ前に、一つになりたいんだ。
山田 何か急に監督みたいなこと言い出すんだね。
小林 …なんでもいいんだよな。
山田 小林。
鬼龍院くん (クールにうなずく)
小林 俺さ、ちょっと今日、決意したことがあるんだよ。それっていうのは何ていうのか、もしか したらみんな知ってるかもしれないけど……。俺には好きなやつがいて、今日、そいつに告白 しようと思ってる。そいつは実は今この内野のメンバーの中にいて、まだ名前とかは言えな いけど、もしこのドッジボールに勝てたら、その勢いで告白しようと思ってる。
山田 名前とか言えないけどとか言ってるけど女子一人しかいないからな。
先生(声) ハーフタイム残り5分なー。
鬼龍院くん ダメだ、時間がなさすぎる。作戦会議をしよう。
小林 なんだよー俺だけ言い損かよー。
山田 何でお前ちょっと誇らしげなんだよ。
みよ子 でも相手の内野が十人っていったって、そのうちの八人は女子だし、十対五だったらなん とか逆転できそうじゃない?
小林 それがよお、女子には利き腕で投げるの禁止とかいう妙な男女差別的ルールついてるからコ ントロールがうまくできないんだよなあ。
山田 それはあるな。
小林 それにさ、女子って近距離で思いっきりボール当てるとその場の空気を「うわ…何こいつ…」
っていう空気にして相手に精神的ダメージを与えるっていうの得意じゃん。
山田 コートの隅に固まる女子。
鬼龍院くん 固まり合う女子を狙うと起こる、悲鳴の大合唱。
男子一同 (それぞれ叫ぶ)
小林 それにしてもさっきの鬼龍院くんのあれ。あれはいいね。
みよ子 え?
小林 ほら、たまたま鬼龍院くんがボール取って、超近距離にいた相手内野の女子がビビって縮こ まってただろ。それを目の前にあのやさしいソフトなボールの投げ方。いや投げたっていう よりうっかりこぼしたってかんじだったね。
山田 しびれるね。
小林 あの女間違いなく鬼龍院くんの虜だぜ。どうしてあんなことが咄嗟にできるんだよ鬼龍院く ん。
鬼龍院くん モテたい。
山田・小林 それな。
みよ子 ねえ、作戦会議じゃないのこれ。
先生(声) あと2分なー。
小林 じゃあとりあえず役割分担だけ決めよう。
鬼龍院くん うん。
小林 まあ俺は開脚跳びの避け専門で決定だろ。
みよ子 ん?
小林 俺、開脚の小林って言われてるからそこんところは大丈夫。
みよ子 なにが大丈夫なのか全然わからないわ。
小林 まず山田はチャンスさえあればボール取り専門。ただしこの役割は一番アウトになりやすい から気をつけろな。
山田 お、おう。
小林 で、鬼龍院くんはとりあえず内野を減らさないように避け専門ね。ドッジボールのドッジっ て避けるって意味だから。自らボールを取りに行こうなんてやつがおかしいから。
鬼龍院くん (クールにうなずく)
山田 俺の役割大否定じゃん。
小林 まあ一つアドバイスするとしたら、もうこれはやばいな当たるなって思ったら顔面か頭で対 応すればアウトにならないからおすすめかな。
山田 お前サラッと過酷なアドバイスしてるよ。
鬼龍院くん うん頑張ってみるよ。
山田 鬼龍院くん…。
小林 で、みよ子は…(見つめる)
みよ子 何よ。
小林 女子だから、俺の後ろな。
間
みよ子 ねえどうしよっか。
山田 だなあ。
先生(声) ハーフタイム終わり!始めるぞ!
山田 うわまじか。
鬼龍院くん もうやるしかないな。
山田 おう。
小林 よし行くか。
鬼龍院くん あ、靴紐ほどけてるから結んどけよ。
山田 おお。サンキュ。
先に歩いて去る小林と鬼龍院くん。靴紐を結ぶ山田。
みよ子 山田くん。
山田 ん?
みよ子 さっきはありがとね。
山田 何が。
みよ子 ほら私が当てられたときにワンバウンドなしで拾ってくれたでしょ。あれで私、アウトに ならないで済んだから…。
山田 ああ、あれね。いいよいいよ。
みよ子 山田くんってかっこいいね。好きかも。
山田 え。
みよ子 先行ってるね!(去る)
山田 ……(呼吸を乱す)。
終わり