ぴあラーメンズ×故林対談

ラーメンズ(零の箱式)取材の際にも「ニッキーズ・パビリオン」のことなどを・・
(ぴあ2001.8.27.号「Play NEWS」欄より)

 コント職人・ラーメンズ。脚本も担当する小林賢太郎と、彼の理論を体現する片桐仁との共同作業は、今、演劇界など他のジャンルからも熱い注目を集めている。 [ラーメンズHP]
 急増するファンに応えて2度の全国ツアーを成功させた彼らが、初期作品から選り抜かれたベスト集を上演する。
 知り合いゆえ単なる楽屋話になる危険をはらみながら、聞き手・故林でお送りします。

Q 初期作品のベスト集を今やろうと思った理由は?
小林:レンタルビデオで僕らを知ったお客さんから、ビデオ化される前(第4回公演以前)のものも観たいという声があって。自分でも見直してみたんですが、少ないお客さんにしか見せてないのはもったいないなって思ったので。
Q その頃の作品を見て感じたことってありますか?
小林:甘いですね。推敲が足りない。スキが見えて。
片桐:でもあの頃は楽だったなあ。あんまり要求されなくて・・・
小林:せいぜい2年前の作品なんですけどね、育っちゃったんだねー、俺が(笑)。
片桐:眼がコメディライターになっちゃったんだ。
Q 現在の、突っ込みが存在しない、説明部分が削ぎ落とされたコントのスタイルを見つけるまでは、どんな笑いを作ってたんですか?
小林:大学時代(多摩美術大学)まで遡るんですけど。一美大生で、絵描きを目指してたんですが、表現の媒体を、平面とか彫刻じゃなくて、舞台、自分の身体と声に切り換えたとき、漫才を選んだんです。漫才って基本の全てが詰まったデッサンみたいなもので漫才ができるようになればコントもできると思っていたので。その後、かぶり物のコントもやりましたけど、いろいろやって今の形が我々の身体にピッタリ来るんじゃないか、ということになって。
Q ふたりの間に意見の対立ってあるんですか。
片桐:ないですよ。
小林:僕が片桐さんの言う通りやってますんで(笑)。
片桐:(笑)賢太郎が凄いのは帰っちゃうところですね。稽古場で少し読み合わせて、『あ、見えたから帰って(台本を)書き直してくる』って帰っちゃう。おいおい、もう稽古終わりかよおって。結構覚えた段階で、別の新しい本を渡されることもあって。
小林:完成していても割りとバッサリ切っちゃうんです。片桐さんが苦労してたら、当て書きができてないわけですから。完成した絵を、またラフに戻すような勇気がないといいものはできませんし。
Q 完成度が高い描写が印象的なんですけど、人間観察をしたりするんですか?
小林:しないですね。強烈な人って、向こうから入ってくる。それを頭の中で勝手に膨らませるだけで;
片桐:人間観察って一切できないんですねー。自分で精一杯です。俺のことだけで。
小林:舞台上で明るくなったときの、ふたりの立ち位置なんかにはこだわりますけど。
Q 空間の使い方・距離感に対するこだわりはラーメンズならではのものなんでしょうね。話の内容自体も、奥行を感じさせるというか、例えば作品
化するとき、状況のどこからどこまでを切り取れるかっていうことひとつにも、センスは問われるわけですから。

小林:うれしいなー、見てるな故林広志(笑)。
Q 僕自身がそう言われたいっていうのがあるんで。
片桐:そうなんだ(笑)。
Q 秋の『ニッキーズ・パビリオン』では、個性のある役者さんたちとの共演になりますが、どうですか。
小林:楽しみです。早くもドキドキしてます。
片桐:客演って、ほんと緊張するんだよなああ。
小林:台本書いてて楽しいですか?
Q それぞれの個性も消したくないし、かと言ってまとまりがなさすぎても困るし、ってところを考えながら書いていて。全員が絡むシーンや、松尾(貴史)さんとラーメンズ、3人のコントも予定しています。

小林:すごいな。舞台上で笑かされたいですね、僕が。
片桐:怒られないようにがんばります。まあ、でも天真爛漫に行きたい、と。
小林:単純に、故林さんの台本はずっとやってみたかったので。コントライブを観たとき、これ出てえなーって。
片桐:ほんとうまいからなあ「親族代表」とか。観て、わー俺こんなのできねえやって。
Q 今後の活動は?

小林:自分で書いて自分で演じてって作業をやってるんで一度、書くだけで人にやってもらうっていうのもやりたいですね。覚えて演じるって作業より、書く作業の方が僕は楽しいんですよ。ラーメンズの本公演は、ずっと定期的にやっていきますけど。
Q お客さんがラーメンズに新しいことを求めてくるってこともあるのでは?

小林:お客さんにスタイルを理解されるっていうのはあまり良くないと思うんですよ、僕は初見のお客のために書いてるって気持ちなので。常連の人に『あれ?らしくないじゃん』っていうのも、スパイスとして入れていければ。
Q 片桐さんの今後は?

片桐:ええ、天真爛漫に。健康に。僕らはとにかく家にいるのが好きなんで、運動不足にならないようにね。

インタビューを終えて
 何かを見て「あれ?なんか変」って思う瞬間がある。形が変であったり、位置関係が歪んでいたり。笑えるという意味とは別の、違和感があるという意味での「おかしい」。 
 笑いのほとんどが観客を安心させ、同じ感覚を分かち合うことを思うと、ラーメンズの空間のユニークさは、まずこの「違和感」にある。そして日常の「単純化・図式化」。構成主義。やっぱりアートってことか。いや、それにしては何かとお茶目だ。だからアートで言えばマグリットのだまし絵。いや、もっと親しみがある。福笑いってところか。いいやそれではめでたすぎる。揺れ動く比喩。
 だぶん、ふたりに親しみを感じるのは、何かに熱中したり、意地を張り合ったりする、少年の無邪気がそこにあるからだと思う。彼らの舞台を観ながら、置いていかれるように感じるのは、我々が大人になり、日常の雑事を背負い込んじゃってる証拠かも。もちろんふたりも私生活では雑事を背負い込んでいるでしょう。