レクリエーション係

コントサンプルで実験、「当時はポピュラー1」のハイライトに持ってきた「悪気なき組織」の暴走、越境メンバーの賜物。97.5初出

『レクリエーション係』

会社の一室。
背中合わせの椅子、下手側に奥本が座り(足元に鞄)。
横に正岡が立っている。

正岡:ねー、意外でしょ。
奥本:え?
正岡:似合わないことやってるなって自分でも思います。
奥本:似合わないって?
正岡:僕がこうやって会議の草案まとめてるってことがですよ。で、過去の資料って
奥本:ああ、資料室に行きましょう(立つ)。
正岡:すみません。

奥本と正岡退場、入ってくる佐々木とすれ違いざま

佐々木:お疲れ。
正岡:お疲れ様!
奥本:お疲れ様。

佐々木、奥本の鞄を見ている。富樫入ってくる(手に封筒)。

富樫:佐々木さん。
佐々木:(しゃがんで鞄を開ける)
富樫:すみません、遅くなって。
佐々木:(携帯電話を取り上げる)
富樫:あの
佐々木:今、人の携帯見てんだ。
富樫:すみません。
(封筒を見て)昨日のうちに仕上げておくつもりだったんですが
佐々木:(携帯操作)いい加減慣れろよ。
(留守電を聞く)もう半年だろ。
富樫:すみません。

奥本入ってくる。

佐々木:じゃ頼んだぞ。いつまでも新人気分じゃ困るんだ。
富樫:はい。

佐々木退場。

奥本:(座る)他で威張る所無いからって富樫君に威張らなくてもね。
富樫:はは
奥本:(仕事しながら)慣れた?仕事。
富樫:いやー、まだダメですね。
奥本:そんなことないよ。
富樫:頑張ります。
(間、姿勢を正し)実は僕レクリエーション係になったんです。
奥本:(振り返り自信無げに)頑張って下さいね・・
富樫:え?
奥本:レクリエーション係。
富樫:はい!奥本さん御結婚おめでとうございます!
奥本:・・・
富樫:つきましては
奥本:なんで知ってるんですか?
富樫:つきましては
奥本:え?まだ誰にも言ってないのに
富樫:(笑顔)びっくりしたでしょ。
奥本:ええ・・でも仕事もあるし時期が来たらみんなに、だからまだ
富樫:ええ。
奥本:ええ。
富樫:みんなもおんなじ考えです。
奥本:なんでみんなが
富樫:お幸せに!
奥本:あ、ありがとう
富樫:そこでレクリエーション係では来月御祝いパーティーをやることになりまして
奥本:だからあんまり
富樫:(寂しげ)祝ってほしくないんですか。
奥本:そんな・・ことはないですけど。結婚のことがどこから伝わったのかなって思っただけで
富樫:佐野さんも同じことおっしゃってました。
奥本:佐野さんの所にも言ったの?
富樫:だってロミオの衣装サイズを測らないと
奥本:何が動き始めてるの?
富樫:僕の企画で初めて通ったのがこの衣装なんです(嬉しそう)。
仕事の方でもこう行きたいもんですよ。やるならオーダーメイドです。ロミオ。うふふ。
奥本:なんか富樫君・・輝いてる。
富樫:与えられた仕事は一生懸命頑張ります!
奥本:・・頑張って。
富樫:大丈夫!ジュリエットの衣装用意しますから!
奥本:あの
富樫:(寂しげ)祝ってほしくないんですか。
奥本:着せて。
富樫:(笑う)
奥本:(苦笑)
富樫:バストウエスト、サイズ(手帳見ながら)変わってませんよね?
奥本:ちょっと
富樫:え?
奥本:「変わってませんよね」って
富樫:でも、変わってませんでしたよ。
奥本:は、測られた覚えがないっ!
富樫:落ち着いて。
奥本:・・・
富樫:祝ってほしいんでしょ。
奥本:だから大々的にしてもらうと
富樫:御祝いパーティーで奥本さんクイズをやるんですが
奥本:あああ
富樫:確認ですが「二人が最初に行ったデートはどこでしょう」
これは戸越銀座でおよろしい?
奥本:な、なんで知ってる
富樫:それは言えません。当日びっくりしてもらわないといけないんで。
会場にはスーツを着て来て下さい、部屋の奥の方の箪笥にある紺色の
奥本:私の部屋まで!どういうこと?
富樫:素直じゃないなあ。
奥本:は?
富樫:素直じゃないのが君の素直な所(間、吹く)。
奥本:(立ち)それ佐野さんが前に言った言葉!
富樫:まあまあ
奥本:どういうこと?!

佐々木入ってくる。

佐々木:奥本。コピーが課長に渡ってないぞ。
奥本:は、はい
佐々木:ぼんやりするなよ。
富樫:そんな言い方するなよ。
奥本:え
富樫:彼女はゆうべ寝たの4時なんだ。
奥本:なぜ!
佐々木:佐野さんの手紙をだらだら読んでたから
奥本:いやあの
富樫:ここ一週間読んでなかったんだ、たまには
佐々木:一週間のうち四日は充分長電話してたんだから
富樫:彼女は切りたがって
佐々木:内容じゃない、通話時間の話をしている!
奥本:二人とも
富樫・佐々木:これは俺たちの問題だ!

正岡、ファイルを手に入ってくる。

正岡:どうしたんですか?
奥本:正岡さん・・
正岡:(佐々木・富樫に)何かあったんですか。
佐々木:君には関係無い。
富樫:(座る)
正岡:(奥本に)どうしたんですか?
奥本:いえ・・
正岡:あ、これありがとうございました。お借りします。
奥本:ええ。
富樫:それ
正岡:会議の草案作るのにね
富樫:会議か。もう一つの方の草案は?
正岡:それも今作ってます。
奥本:重なってるんですか。
正岡:ええ。
奥本:大変ですね。
佐々木:人のこと心配してる暇あったら自分の仕事しろ。
富樫:だから彼女は
正岡:二人とも!何があったか知りませんがせっかくの日に言い争わないで下さい。
(奥本に)ねえ。
奥本:せっかくの日?・・もしか
正岡:今晩は佐野さんとボーリングデートの日なのに。
奥本:正岡さんまで!
佐々木:奥本は乗り気じゃないけどな。
奥本:そこまで
富樫:こないだ佐野さんの方がワインバーに付き合わされたから
正岡:あれは我々の間でも賛否両論ありましたが
奥本:あなたたち
佐々木:191対150で賛成が上回り
奥本:何人の組織なの!
正岡:奥本さんは早く仕事片付けて。ボーリングデートでしょ。
奥本:まだ行くかどうか
佐々木:そう、佐野さんの仕事が片付かないとお流れだって
奥本:でもそれ
富樫:二時頃までに携帯に電話するって
奥本:たぶん留守電に
正岡:そうだ、佐々木さんどうだったんですか?
佐々木:ああ入ってたよ、仕事片付きそうだって。
奥本:(呆然、後ずさり)
富樫:(独り言)じゃ我々撮影班も先乗りして(とファイルを持つ)
奥本:私が資料室言ってる間に・・(正岡に)そのために連れ出したの?
富樫:だって今から準備しないと
正岡:(奥本に笑顔)御祝いパーティーの草案も作ってるんです、私。
奥本:正岡さん
正岡:似合わないことやってるなって思いますけど。
でも御祝いパーティーを成功させるためには
奥本:そんなのやらなくていいから!
佐々木:佐野さんはこのパーティーに出席するって言ってるぞ。
奥本:え・・?
富樫:そのために去年ホステスとの間に生まれた子供と会うのを先延ばしにして
正岡:うん、パーティーはやりましょう。
富樫・佐々木(盛り上がる)
奥本:子供がいるって・・
富樫:佐野さんの部屋のベッドの下に写真がね。
奥本:(間)詳しく聞かせて。(富樫らに近づく)
佐々木:(富樫に指示)佐野さんのページ。

全員富樫の周りに集まる。徐々に暗転。

富樫:(ファイルを探す)こむら、こみやま・・
奥本:もう少しうしろ。

暗転。